都立小石川中等教育学校 2025年 適性検査1

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次の文章1、文章2、会話を読んで、あとの問題に答えなさい。
(*印の付いている言葉には、本文のあとに〔注〕があります。)

文章1

2021年の春、小学生である柴田恵さんが、カブトムシの新たな生態を論文として学会に発表し、話題になりました。研究のきっかけとなったのは、いっしょに論文をまとめた山口大学の小島先生(この後にく文章の筆者)へ柴田さんが送った一通のメールです。そのメールの中で柴田さんは、夜行性のはずのカブトムシが、自宅の庭の木に朝昼晩いつ見ても何匹もいることについて、いくつかの質問と自分の考えを小島先生に投げかけました。小島先生は、当時のことを次のようにふり返っています。

 柴田さんのメールに書かれていたように、*シマトネリコに集まるカブトムシについてはいくつかの謎があり、私もいつかきちんと調べたいと思っていました。しかし、この現象は関東地方以外ではほとんど見られないため(おそらくカブトムシの密度が低いため)、山口県に来てから調査する機会がなく、*歯がゆい思いをしていました。一つ目の謎は、カブトムシが集まるシマトネリコの*株はごく限られているということです。カブトムシが高密度で生息するような場所にシマトネリコが何本も植えられていたとしても、カブトムシが集まる株はその中のほんのごく一部です。しかも、不思議なことに、毎年同じ株に集まるわけではありません。前年に大集結した株に翌年は1匹も来ないということも珍しくありません。そして、もう一つの大きな謎が、*クヌギでは夜行性であるはずのカブトムシが、シマトネリコではなぜか昼間でもたくさん見られるというものです。私が以前『わたしのカブトムシ研究」という本の中で、これらの謎について書いたのですが、柴田さんが自分の庭の木でも同じことが起こっていることに気付き、私に連絡してくれたのです。

 柴田さんの疑問はどれも未解決で、私には答えられないものばかりでしたが、とても面白い点に着目して観察していることが伝わってきました。とりわけ気になったのは「毎日色々な時間に、オスとメスの数や様子を記録」しているという一文です。なぜなら、昼間にもシマトネリコでカブトムシがたくさん見られるということに気付いている人は私以外にもいたと思いますが、単に*経験則でしかなく、一日の中で個体数がどのように増減するかなど、詳しいことは分かっていなかったからです。たとえば、昼間にたくさんのカブトムシが集まっているところを目撃したとしても、夜に見に来ればその10倍の数のカブトムシが集まっているかもしれません。あるいは、ある日の昼間にたくさんカブトムシがいたとしても、たまたま前日の夜に大雨が降り、餌にありつけなかっただけかもしれません。柴田さんの*継続的な記録があれば、これらの可能性を検討できるのではないかと思いました。

 また、時間ごとの個体数の*変動だけでなく、それぞれの個体の動きが分かれば、もっといろいろなことが見えてくるはずです。たとえば、昼間も夜間と同じくらいの数のカブトムシがシマトネリコの木にいたとしましょう。では、夜に見たカブトムシと昼間に見たカブトムシは同じ個体でしょうか?それとも、カブトムシの集団の中に、夜にしか活動しない個体と昼間にしか活動しない個体が半分ずつ混じっていて、昼と夜で個体が入れ替わっているのでしょうか?この二つは生物学的な意味合いがまったく異なりますが、時間ごとの個体数を数えるだけではこの二つの可能性を区別することはできません。そこで私は以下のようにメールを返信しました。

 時間によるオスとメスの数を記録しているのですね。とても貴重なデータだと思います。ぜひ続けてください。本にも書いたように、シマトネリコには昼間でもカブトムシが見られることはよく知られていますが、きちんとデータをとって確かめた人はこれまでいないからです。
 それぞれの個体に番号をつけて観察してみると、どのくらい個体が入れ替わっているのか、寿命はどのくらいなのか、どのくらいの時間餌場に留まるのかなど、新しいことが分かるかもしれません。また、性別だけでなく大きさや体重などを記録するのも面白いかもしれません。

 夏休みが明けた頃、柴田さんから再びメールで連絡がありました。そこには、その年のカブトムシの個体数のデータをまとめたものが*添付されていました。データを一目見て、これはすごい!と思いました。最初にカブトムシが来てから完全にいなくなるまでの約1か月の間、一日も欠かすことなく時間ごとのデータが、*綿密に集められており、カブトムシの個体数が昼夜通してほとんど変化しないことがはっきりと示されていたのです。カブトムシは夜行性であるという常識を*覆す大発見です。その結果は、手書きの見事な図にまとめられていました。集めたデータを1枚の図に分かりやすくまとめるという作業は、プロの研究者にとっても簡単ではなく、経験と高度なセンスが要求されます。柴田さんは、ご両親の協力もあるとはいえ、小学生ながらプロ顔負けの立派な図を作っており、その後もたびたび驚かされることになります。

(小島渉「カブトムシの謎をとく」(一部改変)による)

〔注〕
シマトネリコ  トネリコ属の木。
歯がゆい  思うようにならなくて、いらだたしい。
株(かぶ)  一本一本の木。
生息する  生きて生活する。
クヌギ  ブナ科の木。
経験則  経験上そう言えるというだけの規則。
継続的な  続いている。
変動  一定の状態をもたずに、いろいろと変わること。
添付  メールにファイルをそえること。
綿密に  細かい点までくわしく。
覆す  根本から変える。

文章2

「春」は、後に世界的なバレエダンサーとして活やくすることになります。親戚として「春」を幼いころから見守ってきた語り手は、「春」がバレエと出会ったきっかけを、次のようにふふり返っています。

 彼の口からそれを教えてもらったのは、ずいぶん後になってからだ。

 これがまた、ちょっと不思議な話なのである。

 彼の話を基に、再現してみよう。

 *姉と体操クラブに行って「あれじゃない」と言ってからも、しばしば彼はあの回転を繰り返していた。

 胸がカチッと鳴ったという、ジャンプして空中で一回転して着地、というのを、時々思い出したようにやってみたのである。

 あれ以降は、カチッと鳴ることはなかったが、あの時の「カチッ」を*追体験したかったし、願わくば味わってみたかった。もう少し高く、もう少し*キレをよく、もう少し綺麗な着地で。

 *漠然とそんなことを考え、腕の位置や飛び上がる角度等をいろいろ変えてみた。頭の中で、あの時見たものを繰り返し*巻き戻した。

 そんなふうに、跳んでみたくなるのは、決まって外を歩いている時だった。

 例えば、美しい夕暮れ。

 ゆっくりと空が*茜色から深い紫へと移ろう頃。

 例えば、明るい白昼。

 柔らかな風が木々を抜けてゆき、眩く輝く木の葉をざわざわと揺らす瞬間。

 例えば、嵐の前。

 遠くから危ない大きなものがやってくる*不穏な予感が、凄まじい勢いで*蠢く雲に満ちみちている時。

 そんな風景の中に身を置いていると、しばしば凶暴な衝動にも似たものを感じて、彼はぴょん、と跳んでみるのだった。

 *間欠泉みたいだった。

 彼はその頃の自分をそう言った。

 知らないうちに、自分の中に何か煮えたぎるようなものが溜まっていて、自分でも思いがけない時に噴き出してくるって感じ。

 そうした時間が、二、三ヶ月も続いただろうか。

 季節は秋から冬へと*駒を進めていた。

 姉たちは、毎週日曜日は、親子三人でゆっくりと自宅近くの川べりを散歩するのが習慣になっていた。

 川べりは一帯が広い公園になっていて、サッカーや草野球など、市民がそれぞれのスポーツに*興じている。

 天気は下り坂だった。じめっとした風が吹いていて、墨を流したような雲がじわじわと空を暗くしている。

 彼はいつものように、話をしながら歩く両親の後ろを歩いていた。

 開けた空間、広い空。

 遠くから近付いてくる低気圧を感じる。風の中に雨の気配を、一荒れ来そうな予兆を感じる。

 彼は両手を広げて、他愛もなくくるくると回りながら川べりを歩く。

 こんな時、彼はなんともいえない*もどかしさを覚えている。

 世界はあまりにも大きく、小さな身体で目一杯手を伸ばしてみても、何も触れられず、何も受け止めきれないという無力感。早く世界に触れたい、自分の周りのものすべてを理解したいという焦り。

 そんなこんなが、彼の中ではいつも渦巻いていた。

 いったいどうすれば、世界を手に入れられるのか。世界と繋がるにはどうすればいいのか。当時の彼が、その望みを自分の中で言語化できていたわけではない。まだ彼は自分の言葉を獲得できてはいなかったのだ。

 彼は悔しかった。何もできない、何も知らない自分が悔しかったのだ。

 そして、気が付くと跳んでいた。

 知らぬまに踏み切って、回転していた➖➖いや、回りすぎていた➖➖一回転半➖➖いや、それ以上。

 回りすぎた彼は、着地に失敗した。それまでは綺麗に一回転して下りられていたのに、体勢を崩して、もう少しで転ぶところだった。

 両親は、そんな彼の様子に気付かず、ずいぶん先に行ってしまっている。

 と、突然、離れたところで白い車が停まった。

 川ベリの道は、堤防を兼ねて盛り土がしてあり、アスファルトを敷いた車道になっている。

 バタンとドアが開いて、すらっとした女性が降りてきた。

 黒いシャツにジーンズ。

 春はきょとんとして、スタスタと自分に向かって歩いてくる女性を見ていた。

 若いような、そうでもないような。ショートカット、長い首、鋭いまなざし。

 初めて目が合った時、何か強い光みたいなものが入ってきたように感じた。

 女性は慌てているようだった。まっすぐに彼のところまでやってきて、ニメートルほど離れたところで足を止め、彼を見た。

 知っている人ではなかった。初めて会う人だ。ちょっと青ざめた顔をしている。

「ねえ、君、どこのバレエ教室で習ってるの?」

 *開口一番、女性はそう言った。

 思ったよりも低く、*ぶっきらぼうな口調だった。

 春は何を訊かれたのか分からなかった。

 バレエ教室。

 たぶん、その時初めてその単語を➖➖バレエという単語を耳にしたのだ。

(恩田陸「spring(*スプリング)」による)

会話

ひかる:文章1 は、カブトムシの生態についての「謎」を解こうとしています。それに対して、文章2はまったくちがった内容ですね。

かおる:そうでしょうか。二人はそれぞれの方法で、自分にとっての「謎」を解こうとしているのだと思います。文章2の春さんも、彼にとっての「謎」を解こうとしている点では、文章1の柴田さんと同じだと思います。

あおい:私もそう思います。柴田さんは、毎日けい続して( ア )にカブトムシの様子を( イ )することで、「謎」を解こうとしているのに対して、春さんは、ジャンプをくり返すことで、それを解こうとしているのではないでしょうか。

かおる:うまくいかない中でも、春さんがなぜ何回もジャンプをするのか、その気持ちは私にもわかるように思います。

ひかる:なるほど。文章2の春さんのジャンプを「謎」を解こうとする気持ちのあらわれととらえれば、二つの文章には共通点があるのですね。

あおい:なんだか身近な「謎」に興味がわいてきました。

かおる:私たちも、自分にとっての「謎」について考えてみませんか。

〔問題1〕 あおいさんの発言の、( ア )( イ )に入ることばとして適当なものを、文章1適当なものを、文章1の中からさがし、ぬき出しなさい。ただし、( ア )は四字以内、( イ )は二字で答えること。

〔問題2〕 かおるさんは春さんの気持ちがわかるようだと言っていますが、その気持ちはどのようなものだと考えられますか。文章2の中の一続きの表現をもとにして、次の【  】内の( ウ )( エ )に当てはまるように答えなさい。ただし、( ウ )は十五字程度、( エ )は十字程度で答えること。

( ウ )を感じながらも、なんとかして( エ )という気持ち。

〔問題3〕かおるさんは「自分にとっての「謎」」と言っていますが、あなたにとっての「謎」はなんでしょうか。それを解決するために、どのように取り組んでいますか、または取り組んでいこうと考えていますか。あなたの考えを四百字以上四百四十字以内で書きなさい。ただし、下の条件と(きまり)にしたがうこと。

【条件】
・ 文章1・文章2・会話の内容をふまえて書くこと。
・ 「謎」は一つにしぼって書くこと。
・ 適切に段落分けをして書くこと。

【きまり】
題名は書きません。
最初の行から書き始めます。
各段落の最初の字は一字下げて書きます。
行をかえるのは、段落をかえるときだけとします。
、や。や」などもそれぞれ字数に数えます。これらの記号が行の先頭に来るときには、前の行の最後の字と同じますに喜きます(ますの下に書いてもかまいません)。
。と」が続く場合には、同じますに書いてもかまいません。この場合、。」で一字と数えます。
段落をかえたときの残りのますは、字数として数えます。
最後の段落の残りのますは、字数として数えません。

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